従来の考え方では、観察対象も観察者も静止していることを前提としていました。しかし、現実世界では、 どちらも動いています。観察者の動きによって、対象物の見え方を大きく変えます。人間の身体を観察する場合も例外ではありません。身体を観察する際、観察者と観察対象、双方の動きを考慮する必要があります。従来の静的な視点では、刻々と変化する身体の状態を捉えきれません。
鍼灸治療は、殆どの場合、寝た状態で施術します。重力から開放させる意味はリラックスさせることなのかもわかりませんが、リラクゼーションが目的ならそれでも構いませんが、人間は動物であり、常に動いています。少なくとも座位か立位で観察することが必要です。
しかし、これを説明しても、それができる鍼灸師は、とても少ないのは残念です。今までの慣習がそうさせてしまっているのだと思いますが、これを打破しない限り鍼灸治療に未来はありません。
動的な対象を静的なものとして捉えることは、その本質を見誤ることに繋がります。ツボや経絡は常に変動しており、観察者によって見え方が変わりますが、そのことすら知りません。
止まっているものであっても観察者が動いていれば、動いているように感じます。逆に、動いているものが止まっている人が見れば、動いているように感じます。対象物が動いている場合も、観察者の速度や方向によって見え方が変わります。時速40kmで走る車を、同じ方向に歩いている人が見れば、35km/hぐらいの速度で走っているように見えます。逆方向なら45㎞で進んでいるように見えます。
つまり、観察対象と観察者の相対的な速度と方向を認識しなければ、正確に観察することはできません。
ほとんどの場合、観察対象は静止していると仮定して観察するため、その本質を捉えきれないことがあります。少なくとも寝た状態では正確な診断は不可能です。
物質は本来、原子核の周りを電子が超高速で回るエネルギーの塊です。肉眼では止まって見える物質も、実際には超高速で動いています。この動的な視点で人体を観察する必要があります。静止した観察者は、超高速で動く物質の現象を明確に捉えられません。しかし、観察者自身も超高速で動くことで、物質の本質を捉えられる可能性があります。
エネルギーの流れと磁石
磁石は一定の流れを持っています。N極からS極に流れる方向性があります。電磁気学的な詳しい説明はおいておいて、この概念を利用して身体に方向性を示す作用が磁石にはあるということです。
ここで重要なことはN極からS極への方向性があるということです。これを利用して磁石を診断に用いることができます。経絡にも流れがあるとされているので、磁石の方向性と経絡の方向性を考慮し、身体の状態を観察してみると様々な面白い現象が起こります。
例えば手の肺経なら体幹から末端へ流れる流れがありますが、肺経の流れに沿ってN極を体幹側、S極を末端側にして置くと身体の緊張に変化があらわれたりします。そういう現象が起こった場合、これをどう解釈するかで、その現象を判定することができるようになってきます。
術者の意識によって、身体の状態が変化するというのを認めると、極性のある磁石を近づけると、それに伴って身体は変化します。ただ、ここで条件設定が必要です。経絡の存在を認め、経絡による流れ(エネルギーの流れ)が存在するという前提を条件にし、肺経は体幹から末端に流れているという条件、そして、磁石はN極からS極に流れる方向性を持っているという条件です。これらを術者がブレることなく思い続けられれば、身体を確実に変化させることができます。条件が整わなければ、この現象を起こすことは不可能です。
磁石とインディケーター筋
まず、右肩と左肩の僧帽筋をつまみ、左右差を確認します。もし左肩が緊張しているとわかったら、その左側の緊張をインディケーター筋(アプライドキネシオロジーからの引用)として設定します。つまり、この筋緊張の変化を指標として観察します。ここでは、緊張の度合いではなく変化の度合いを観察することが目標です。
具体的には、磁石を近づけた時に筋緊張がどう変化するのかを確認します。力任せに押したりすると正しい結果は得られません。筋肉の緊張を物質的で固定的な緊張だとしか解釈しない人には、絶対にこの現象を理解することはできませんので術者の意識がとても大切です。これが条件設定という術者の意識です。
例えば、肺経の流れに沿ってN極を体幹側、S極を末端側に置き、左肩の筋緊張の変化を観察します。まず左側の肺経、次に右側の肺経、さらに左右の心包経や心経の変化を順に調べることで、手の陰経の変化を捉えることができます。
また、同じ肺経でも、体幹側の中府や雲門に磁石を置いた場合と、尺沢や少商に置いた場合で肩の緊張の変化には違いがあります。理由は明確ではありませんが、変化があるということは何らかの違いがあることを示しています。
例えば、中府に置いた時に筋緊張が緩み、尺沢に置いた時に緊張し、列欠に置いた時に再び緩み、少商に置いた時に緊張することがあります。これは、経絡上で反応の強弱が交互に現れることを意味しています。経絡がエネルギーの波のように作用していることを示唆しているのです。
逆に、肺経の流れに逆らって末端側にN極、体幹側にS極を置いて筋緊張を観察することも可能です。当然、最初の反応とは真逆の反応を示します。つまり尺沢に置いた時に緊張していたものは、逆に弛緩し、弛緩していたものは緊張するということになります。
これは、方向性を持った磁石が経絡に対してプラス、マイナスのエネルギーを示しているのではないかと理解できます。
手の経絡しか判断していませんが、この方法であれば、脉診より詳細な判断ができます。脉診は右の肺経と左の肺経の違いを知ることは難しいですが、この方法なら右と左の違いを明確にすることが可能です。
左の肺経は、場所によって弛緩したり緊張したりしているのがわかります。
経絡がエネルギーだという一つの証拠なのではないかと思っています。
問診の利点と欠点
問診は条件設定がしやすいので、同じ結果になりやすいという事実は納得できます。しかし、回答者の嘘や自己評価の誤りによって、問診が最も不正確な診断になる可能性もあります。つまり、問診は古典物理的なアプローチであり、触診や脈診は量子的なアプローチと言えるでしょう。
だからこそ、触診や脈診は難しいとされるのかもしれません。しかし、診断結果が同じでなければならないという固定観念を捨てれば、触診や脈診はより柔軟で活きたものになります。動的なものを静的なものとして捉えるのは、人間の勝手な思い込みによるものです。
東洋医学の発展のためには、術者の思考や背景、条件設定によって身体の状態が変化するという前提を受け入れることが重要です。この前提に立つと、鍼灸治療において、条件設定によって結果が異なる現象が頻繁に起こることが理解できます。同じ流派であれば、同じ背景や経験を持つため、結果が似通うのも当然です。
しかし、他のエネルギーを取り込まない排他的なグループは、自然と他を認めなくなり、流派間の対立が起こりやすくなります。これは、鍼灸の発展を妨げる要因です。
他流派の主張を受け入れるには、その背景を理解することが必要です。排他的な思考に陥ることなく、背景を条件設定として考慮することで、同じような結果を得られる可能性が出てきます。
物理法則から量子法則まで、ケースバイケースで柔軟に対応できることが、真実に近づくための鍵となるのではないでしょうか。